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場にふさわしい着物とは・・・結婚式編


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よく結婚式に着ていく着物について、悩まれる方が多くおられます。



 兄弟姉妹の結婚式では、親族なので色留袖でないといけないの?
 年齢的に微妙ですが、独身なので振袖が正しいのでしょうか?
 結婚式に付け下げ訪問着では、ふさわしくないのでしょうか?
などなど、様々なケースがあります。




恐らく、ちまたの呉服業界の人に聞くと、多くの場合、着物種別の慣習にならい、あなたの立場と年齢で、結婚式には、留袖、色留袖、訪問着や紋付色無地などを薦めてくることでしょう。

しかし、着て行かれるご本人は、なぜか違和感やモヤモヤした想いを感じてしまうということがあるようです。それは、着物の慣習的な正しさを守った方がいいという思いと、他の参列者に比べて浮いてしまうのではないかという思いの間で板挟みになっているのかも知れません。

呉服屋業界の人が、現在でも使う着物種別は、実は、戦後、着る人が迷わなくて済むように、業界が整理したもの。当時の結婚や慶事には参列者の多くがまだ和装だった時代に、黒留袖、振袖、色留袖、訪問着、紋付色無地等の礼装の格付けされた規範です。(いつしかこの規範が一人歩きをはじめ、盲目的にこの規範に従うことが着物文化であるかのように、多くの呉服屋がなってしまっているのかもしれません)

この着物種別の規範ができる以前も、着物の風習やしきたりは、もちろんありました。その時々の時代の事情や背景が影響し、長い歴史の中で少しずつ変化してきています。

現代の結婚式では、残念ながら、和装の礼装、ハレ着というのは、少数派になりました。どの式場でも、洋装のフォーマルドレスが多数派で、ドレス自体の華やかさというよりは、ネックレスやイヤリングなどの宝飾アクセサリーで着飾られます。それに対し、和装は刺繍や絵羽模様などお召しもの自体に装飾がなされているため、少数だと自然に目も惹いてしまうだけでなく、絵柄が意味を持つため場にふさわしいかどうかも、心を配る必要があり、不安になってしまうかもしれません。



本来、着物文化の根底には、日本的品格・品性がありました。その場に来る人のそれぞれの立場とその人の召し物の華やかさは、寿ぎと心配りの絶妙なバランス感覚があったのだと思います。



現代の結婚式の参列で洋装をされる方の多さは、着物種別の規範ができた当時の状況や感覚とは全く違います。そんな現代の洋装和装混在の結婚式という場で、日本古来の寿ぎと心遣いを体現する着物とは、本当はどうあるべきなのでしょう?

本質を見失わず、現代人にも、後世にも受け入れられる着物の形とは?
いち呉服屋としても、永遠の大きな大きなテーマです。

また、和装機会は限られても、機会があれば着物を着たいといっていただける女性が思いのほか多いことは、呉服屋として本当にうれしいことです。
結婚式でも着られて、お宮参り、卒園式、入学式、初詣、観劇、お茶会、お仕事関係の交流会・パーティなど、その他の大切な機会に胸を張って着ていただけるきものはできないものか?

京都呉服屋として長年多くの町方の奥様方にご贔屓にしていただいた当店にとって、そのひとつの答えが、「出ず入らずの美」を備えた、さりげなく際立つ付け下げ訪問着です。