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洗練された付け下げ訪問着・付け下げに在るもの


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近年、「付け下げ訪問着」や「付け下げ」が、着物愛好家・着物通の間で広がってきました。
柄ゆきの自由度が高く、格の重さも調整できるため、意匠の構成によって様々な場面で着まわしのきく一着に仕立てられる。そんなメリットがあるからでしょう。「付け下げ訪問着」や「付け下げ」をあつらえる呉服屋には、お客様のご希望やご予算にあわせ、絵柄・刺繍の多少を考慮しつつも、外出着として恥ずかしくない品格や洗練さを備えたものに、いかに仕上げられるかが問われるように思います。

では、どうやって洗練された「付け下げ訪問着」や「付け下げ」にするのか?

京都で付け下げ訪問着と付け下げを、六十余年の長きに渡り手がけてきた当呉服屋では、付け下げ訪問着や付け下げをあつらえる際に、その洗練さ・完成度に大きく影響することから、特に力を注いでデザインする要素があります。
それは一体何なのか? 色、絵柄・刺繍のデザインなどを連想された方も多いかもしれません。もちろん、それらひとつひとつも大切にし、力を抜くことはありません。

付け下げ訪問着や付け下げの洗練さ・完成度を大きく左右する大切なもの・・・
それは、「間(あわい)」だと考えています。

着物の「間(あわい)」とは、絵柄のない空間、絵柄と絵柄の間に広がる無地場のこと。人の会話で例えるなら、何も語らない無言の間(ま)です。人と人との会話でも、言葉少なに話したり、時に、無言の方が多くを伝えることがよくあります。「間(あわい)」は、何もない空間のようでいて、人の心に何かを映しだし、不思議と深みや余韻が現れます。そこには、絵柄や刺繍とは、また違う奥深さがあります。

洗練された秀麗な付け下げ訪問着や付け下げの佇まいには、静かに語りかけてくる「間(あわい)の美」が在るように思うのです。